Ｉｌｌｕｍｉｎａｔｉｏｎｓ

Ｉｌｌｕｍｉｎａｔｉｏｎｓ

　細かい泡が立ち上がるフルートシャンパングラス。

　ロデテール　エステール　マンダーソンヴァレー　ロゼ

　
　ＳＥＡＳＯＮＡＬ　ＣＵＩＳＩＮＥ　ＦＲＯＭ　ＳＡＮ　ＤＩＥＧＯ

　
　
　ディナーコースからおれの分だけ「うずらのソテー」を「ホタテのホワイトソース」にチェンジしてもらう。

　アミューズ、スープ、パスタ・・・。

　カレラ　セントラル　コースト　ピノワール。

　牛フィレステーキに合わせた、軽やかなコクとさっぱりとした赤ワイン。

　「トリュフ、食べる？」

　おれは、まともに形を留めたトリュフを食べるのは初めてだ。

　至福の味と称えられているが、松茸や椎茸とはもちろん違うが、三大珍味とまでは思わない。

　大きなマッシュルームを黒くして硬くしたペッパー風味のキノコ。

　先入観がない方が楽しめるのかもしれない。

　メインディッシュがリリースされる前に、ＤＵＥＴＯ　ＨＯＴＯＫＡＮＩによる生演奏がおれたちの席にまわって来た。

　キューバ（クーバと聞こえた）のハープとギターによるデェットだ。

　「Ｔｏｄａｙ　ｉｓ　ａｎｎｉｖｅｒｓａｒｙ　ｄａｙ．」
　
　リクエストに対してこんな言葉を彼等に返す。

　柔らかいハーブの音色と共に歌う言葉は「ハピバースディ、トューユー・・・。」

　２曲目のリクエストには「ロマンティックな曲を・・・」

　演奏が終わり、お礼に握手した右手から折り曲げた紙幣が消えた。
　
　濃い口ひげを緩め、サンキューと笑みを浮べてラウンジに２人も消えていく。

　牛フィレとシーフードのメインディッシュの後はデザートだ。

　夜景を背にして座っているおれの前方にホワイトで揃えたウエイターとウエイトレスが７，８人並びだした。
　
　２人のウエイターが３つのデザートが載ったロングディッシュを持ってきた。
　
　片方のケーキには２本のキャンドルが光っている。

　「失礼ですが、今日はお誕生日でしょうか」

　一番上位のウエイターがおれたちに尋ねた。

　違うよ、勘違いだ。

　さっきの歌はアニバーサリーを誕生日と間違えたんだよ。

　「失礼しました。早とちりして申し訳ございません」
　
　あわてた様子で、後ろに並んでいたウエイトレスたちも帰りかけた。

　きっと店員一同でハッピーバースデイを歌ってくれるつもりだったのだろう。

　「ごめんね。今日は結婚記念日なんだ」

　そうだったんですかと、２人のウエイターはデザートをキッチンに持ち帰った。

　チーフと記念日の話をしている間に、それぞれにキャンドルが乗ったデザートが運ばれた。

　「おめでとうございます」

　「ありがとう」

　閉店時間の１０時を少し回り、店の中は、おれたちの他には若い１組の恋人たちだけだ。

　フロントで預けたコートをうっかり忘れそうになり、おれたちは襟を立ててイルミネーションに向かって歩き始めた。